嗚呼、同窓会の思い出 《後編》
ボクとユウカさんとは中3の時同じクラスでした。ユウカさんは清楚で頭がよく、県内一の高校を目指していましたが、ボクはそれほど頭が良くなかったので、県の中でも中の下くらいの高校。
地域の図書館にボクらふたりはほぼ毎日勉強しに通っていました。
ボクは、ユウカさんが図書館に訪れる時間を計算して図書館に先回りし、席を2人分とり、ユウカさんが来るのを待つ日々でした。
ユウカさんは、ボクが席を取ってくれてることを喜び、毎回「ありがとう!」と眩しい笑顔で言ってくれました。
ユウカさんはボクの隣に座り、ボクらはそれぞれの苦手科目の克服に勤しんでいました。
ふたりは図書館が閉まるまで勉強しました。そのあと、図書館から出て、駐輪場まで行くまでが唯一会話ができる時間。学校では他の生徒もいるので、女子とは全く会話できませんが、ここだけはふたりだけの時間でした。その少しのお喋りが僕にとって毎日の幸せでした。
まあ、会話と言っても、
「あのー、なんかー、そのー、最近・・・暑くなってきましたよねー」
とか
「ユウカさんて・・・星座は何座ですか?」
とか
「てんびん座占い今日1位でしたよ」
とかその程度のものです。たどたどしいボクに対してユウカさんはニコニコしながら、「へー!そうなんだー!」と明るく元気に答えてくれました。
彼女の眩しい笑顔を見るたびに、もっと勉強してればユウカさんと同じ高校に入れたのにと、自分の努力不足に後悔しました。
しかし、ユウカさんが1人で来ない時もあります。友達と一緒に来るとき、ボクは少し離れた席に座り、彼女たちの様子を見ながら勉強していました。
「どんな会話してるんだろう?」
「ボクの話題出てないかな?」
と、聞き耳を立てているとたまに目が合います。そのときはニコリと微笑み、アイコンタクトしてくれました。
この瞬間も2人だけにしかない素敵な世界でした。あゝ、これが永遠に続けばいいのに。本気でそう思う日々でした。
そんなユウカさんと約5年ぶりに会えました。5年前と輝きはちっとも変わらず、大人っぽさが増し、さらに魅力的な女性になっていました。
この瞬間、5年ぶりに彼女と目が合いました。ボクは気持ちが中3に戻り、彼女の目を見つめ、軽く会釈しました。
「ユウカさん、覚えていますか?久しぶりにお会いしますね。あの毎日通った図書館の日々から5年も経ちます。あなたとお会いできなかった日々はボクにとっては苦し過ぎました。辛かった。会いたくて会いたくてたまりませんでした。けれど、あなたは県内トップのH校。ボクは中の下のI校。学歴という壁がボクらの間を邪魔していました。頭の悪いボクがユウカさんに近づくのが、正直言って恐れ多かったのです。怖かったのです。しかし今日、あなたを一目見て確信しました。ボクらの間にあった壁はボクの被害妄想だったんだって。だって、そうでしょ?あなたはあの頃と変わらず、明るくみんなに笑顔を振りまいて輝いているのですから。ボクはあなたの眩しい笑顔に惚れていました。あなたの笑顔に勇気付けられ、あの時志望校に合格したんだと心から言えます。そして今日、運命的にボクらはこうして出会った。神様はボクたちをやはり再び結ばせたかったのかな?へへっ、なんだか照れくさいや・・・。ユウカさん、ボクはあなたを心の底から愛してます。そして、今、この同窓会から抜け出して、2人っきりになろうよ。5年前から今日までの、ボクの知らないあなたのこと、聞かせておくれ。さあ。」
と、心で唱え、6メートルほど離れた彼女を見つめました。
すると、
彼女は、
目を細め、じっとボクを見つめてきました。
ボクも再びぐっと彼女を見つめました。
しかし・・・
しばらく見つめあったすえ・・・
彼女は左ななめ45度にクビをかしげました。
そして、その口が小さく動きました。
ボクはその口の動きに衝撃を受けました。
「だれだっけ、アイツ・・・」
彼女の口はそう動いたのです。
「だれだっけ、アイツ・・・」
「だれだっけ、アイツ・・・」
「だれだっけ、アイツ・・・」
ボクの心は氷点下マイナス100°Cに達し、顔はカアアッと熱くなりました。
そして彼女は近くにいた友達に声をかけ、ボクの方を指差し、またさっきの口の形をしたのです。
「だれだっけ、アイツ?」
あああああ!!!
もうやめてくれええええええ!!!!!
すると、友達の方が口をパクパク動かしました。するとユウカさんが
「ああ!」
と、目を見開いてボクを見ました。
そうです。ようやく彼女はボクの事を思い出したようです。そして、彼女はスタスタとボクの方へ近づいてきました。
そのとき、ボクは既に心が限界に達していました。
彼女はボクのことをずっと想ってくれていなかったのです。今にして思えば当然です。人気者だった彼女は男子からもしょっちゅう話しかけられていました。ボクはその度に
「バカな男どもめ。俺なんてこんな群がって話さなくても、図書館に行けば毎日会えるんだぜ!」
と鼻高々にしていました。しかし、彼女にとってボクはその群がる男子のうちのひとりだっただけなのです。ボクは彼氏でもなければ主要キャラでもない。ただのモブキャラ。図書館へ行くと現れ、話しかけると
「せきをどうぞ!」
と、席を譲ってくれるだけのキャラクター。そんなモブ男がヒロインに恋をしてしまった。ヒロインはそんなボクを相手にしてくれるはずもありません。
なぜもっと早く気がつかなかったんでしょう?いや、本当は気づいていたのです。
なぜなら彼女には別の彼氏がいたからです。でもボクは認めなかった。
ユウカさんは彼氏と一緒に図書館へ来ることもありました。そのとき、ボクは
「無理やり付き合わされて、ユウカさんはなんて可哀想なんだ!ボクがいつか彼女を守ってあげなくてわ!」
と、張り切っていました。
今にして思えば、彼氏といる時のユウカさんがボクが見たユウカさんの中で1番輝いていました。
ボクは1人だけで盛り上がっていたのです。
そのことを5年間忘れていました。そう信じたくなかったのでしょう。ボクと彼女が相思相愛だったという偽りを脳が勝手に刻んでいたのです。
彼女はボクに近づいてきました。おそらく目が合ったし、同じクラスだったため、“一応”アイサツしたかったのです。
ボクはヨン様のように彼女を微笑んで見つめていたことを恥ずかしく思い、そのまま一言も交わさず、走って逃げました。
うわあああああああああ!!!
ボクは心の中で大いに泣き叫びました。
そのまま二次会にも参加せず、家に帰り、その日は9時には寝ました。
これがボクの同窓会の思い出です。
同窓会なんて行っても恥かくだけ。
ボクは一生同窓会には行くことは無いでしょう。
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